考古学の史料によれば、新石器時代から人類の歴史を何万年かたどってみると、人の周囲にあったものは、棒、容器、スポンジ、くし、楽器など一四種類でそれはずっと変わっていない。(註1)
樹木の形がそう変わっていないように、人の周囲にある「もの」も何万年前と本質的にはあまり変わらないというのは、何か人を安心させてくれるように思う。
最近になって、木工、庭師、アーボリスト、樹木医と、意図せず樹木を中心に自分が連環していることに気がついた。その時々において、材料として認識し、庭の中では生物や装飾物として扱い、また公の場では支障物や環境指標、また守る対象にもなった。
神にも厄神にも、材料にもなる多様な存在である樹木に動かされているのだと考えると、仕方がない。
木の中に棲む動物や菌類と、そうかわらないのかもしれない。棒としての樹木を伐り、中を刳りぬいて器や盆といった容器をこしらえたり、あるいは割ったり削ったりした棒を組み合わせて人を包む容器としての椅子を作る。まるでムササビやビーバーのようだ。
木が横倒しになるやいなや、人の関心はそれで何を作るか、に変わる。材料や物となった樹木は、生物としての生きた証を残してはいるものの、静寂そのものだ。樹木が木材へ変貌を遂げる瞬間というのは、ダイナミックだ。そして、それは原始的で、野生的な感覚を呼び覚ましてくれる。
註1 『デザインの生態学』東京書籍 (2004)
吉岡正樹
「棒と容器」 吉岡正樹 展
庭師・アーボリスト・樹木医・木工家として活動する吉岡正樹氏の個展を開催いたします。
自ら切り倒した樹木を用いて制作した刳り物などの木工作品をはじめ、樹木を中心に据えた多岐にわたる活動をご紹介いたします。
会期中、会場にてに裏山で伐採した桧を材とした「ゴッホの椅子」の実制作を行います。
会期
11月26日(土)から12月4日(日)まで
(11/29.30 12/1はメールにて要予約)
開場時間:10:00ー16:00
場所:物|事 田疇
宍粟市山崎町上牧谷713
吉岡正樹
Yoshioka masaki
庭師。アーボリスト。樹木医。木工家。京都教育大学の美術 科教育木工芸専攻を卒業。在学中にヒッチハイク(通算200 台以上)で乗ったjica職員の「木工だったら受けてみなよ」 の一言をきっかけに、国際ボランティアの木工教員として西 アフリカ、サハラ砂漠の最貧国ニジェール共和国に赴任。草木がほとんど生えていない国の職業訓練校 にて、小学校をドロップアウトした子どもたちに木工を指導する。数々の想像を超える体験ととも に、木工と気候の関係も痛感。帰国後、(株)京都指物にて家具製作会社に就職するも、海外産の木材で 高級家具を作ることに強い違和感を覚える。その後、京都幾何工房に住み込み、木漆工芸家、建田良 策氏に師事。おが屑の入ったコーヒーと漆の着いた服で過ごす。修行中にアルバイトで庭師を経験した ことで、生きている樹木に関わることの喜びを体感する。思い切って主軸を庭師に移し、作庭家、古 川三盛氏に師事。奈良に移り住み、奈良、京都の寺院や古民家、はたまた中国での作庭、管理業務な ど幅広く庭師としての経験を積む。樹木を美的対象物として見る視点や美的剪定スキルを習得。茶道庸 軒流を嗜む。さらに樹木について本質から学びたいと考え、長野県へ移住。(株)アーバンフォレストリーにて巨木の管理業務や支障木の特殊伐採に携わる。樹木医資格を取得し、樹木を生態学的に捉え る視点や力学的、樹木医学的な剪定スキルを習得する。またグリーンウッドワーク指導者養成講座を 受講し、伐採木の利活用を通じて樹木を体験する可能性を見出す。...と気がつけば木から木へ...渡り鳥 のようになっていました。現在は、「地域という庭」をキーワードに、揖保川流域を庭として捉え、グ リーンウッドワーク講座や伐採木での作品制作、樹木メンテナンスや庭園管理など幅広く活動中。
1981年生まれ。兵庫県出身。宍粟市在住。
会期中、会場にて裏山で伐採した桧を材とした「ゴッホの椅子」の実制作を行います。
①11月26日(土) 部材の木取り
②11月27日(日) 細い部材の加工
③11月28日(月) 脚の加工
④12月2日(金) 部材加工の続きと穴あけ、
前側・後側の組み立て
⑤12月3日(土) 前後の組み立て、仕上げ
⑥12月4日(日) 座編み、完成